「死時計」/ディクスン・カー(フェル博士シリーズ5)
「死時計」とは、著者のジョン・ディクスン・カーが書いたフェル博士シリーズの5巻目にあたります。
時計師の家で死体が発見され、殺害に使われたのは有名な時計の作品の長針でした。
容疑者全員がアリバイしか見当たらなく、犯人が中々見破れないフーダニットの名作です。
今回は「死時計」について感想を語っていきます。
フェル博士シリーズ(ディクスン・カー)の読む順番
ディクスン・カー作品の読む順番や、ギディオン・フェル博士シリーズの読む順番については以下の記事でご紹介しています。
ご興味あればぜひチェックしてみてください!
ギデオン・フェル博士シリーズ(ディクスン・カー)の読む順番一覧|全25巻完結済み
「死時計」のあらすじと登場人物
月光が大ロンドンの待ちを淡く照らしている。
数百年の風雨に黒ずんだ赤レンガの時計師の家、その屋根の上にうごめく人影、天窓の下の部屋では、完全殺人の計画が不気味に進行していた。表のドアがあけはなたれて、死の罠へおびきよせられた犠牲者の押すベルが鳴る…。
会談を上る若い女の眼前に横たわった死体。
かたわらには一人の男がピストルを手にして立っていた!この殺人現場へ登場するおなじみフェル博士。
奇想天外の狂気!曲折する捜査のかげで、魚のように冷血な機略縦横の真犯人が、青白い微笑を浮かべている。カー初期を代表する傑作!
前回は船上での事件でしたが、今回も奇怪な状況にフェル博士とハドリー警部は出くわします。
とある著名なカーヴァーという時計師の家で、一人の男性死体が発見されました。
しかも死体のそばにはピストルを持った男性が佇んでいました。
通常、ピストルを持った男が犯人だとその状況では判断しかねないですが、死体はピストルが原因ではありません。
死因は、何者かによって背後から時計の長針を首から胸にかけて刺されて殺されたようです。
事件を捜査していくと、とある宝石店で行われた盗難殺人事件の犯人も関わっているようで、事態は昏迷状態に陥っていきます。
いつもながらフェル博士が確信的なことを言わないまま、ハドリー警部はもやもやし、最後の最後でハドリー警部の推理をフェル博士がひっくり返すところが今作の面白いところです。
登場人物一覧
フェル博士:探偵
メルスン:歴史学者、博士の友人
デヴィット・F・ハドリー:ロンドン警視庁犯罪捜査部主席警部
ジョハナス・カーヴァー:有名な時計師
エリナー:カーヴァーの養女
カルヴィン・ボスクーム:カーヴァー家の同居人
ミセス・ミリセント・ステフィンズ:カーヴァー夫人の友人
ミセス・ゴースン:カーヴァー家の家政婦
ルーシア・ハンドレス:女事務弁護士
クリストファー・ポール:カーヴァー家の同居人
キティー・プレンティス:カーヴァー家の女中
ドナルド・ヘイスティングズ:エリナーの恋人。ルーシアの従弟
ピーター・スタンレー:ボスクームの友人。元犯罪捜査部首席警部
エヴァン・トマス・マンダーズ:ガムリッジ・デパート売場監督
エイムズ:ガムリッジ・デパート売場監督殺害事件の担当警部
「死時計」を読んだ感想(ネタバレあり)
今回はかなりドラマチックで面白かったです。
トリックはおいといて、フェル博士の登場作品の中では、かなり上位に入ってくるほど読み応えがありました。
今回の謎解きは、フーダニット(Who done it?)をメインとする作品です。
カーを読む人なら共感してくれると思いますが、彼の作品は序盤から仕掛けてくるものが多く、最後の最後でアッと思わせてきます。
特に一番の魅力は、以下でした。
・フェル博士の疑似裁判劇
・犯人のアリバイで騙された
完全にネタバレになりますので、読み終わった方のみ御覧ください。
フェル博士の逆転裁判
名場面は事件の後半になりますが、ハドリー警部とフェル博士が犯人のアリバイについて疑似裁判劇を繰り広げます。
ハドリー警部はデパートで起こった盗難殺人事件と今回の殺人事件を関連づけているため、とある人物を疑いました。
疑った理由はいくつかあるんですが、一つはその人物の部屋に、かつてデパートで盗まれたアクセサリーが発見されたからです。
また、被害者の胸に刺さっていた長針のペンキが、容疑者の持つ手袋についていたことなどから間違いないとフェル博士に言いました。(推理の根拠についてはまだあるんですが詳しくは本書を。)
これに対して博士が全く違うと反論するんですが、この場面がめちゃくちゃ面白くて、容疑者に対しての疑いが晴れました。
物語の終盤まで、ハドリー警部とフェル博士は意見の対立をしていたの余計に面白かったのですが、ミステリー好きはこの場面から終盤にかけてぜひ読んでほしいです。
犯人のアリバイで騙された
今回の犯人は狡猾で読み応えがあって面白かったです。
ちょっと1巻の「魔女の隠れ家」と似たタイプかもしれません。
犯人のネタバレはしたくないので詳細は言えませんが、ようは「自分への容疑者外し」を上手くやっていました。
今思えば、著者カーによって犯人に対する存在感を極限まで薄めていた気がします。
そうすることで、最後の最後で犯人が明かされるシーンでは普通におどろきましたし、してやられたなと思いました。
トリックについてですが、状況を文字で説明されるとわかりにくいのはいつものことですが、今回はさらにわかりにくかったです。
面白いのは代わりないのですが、図解がついてれば理解しやすかったかもしれません。
ルーシア・ハンドレスについて
最後までよくわからなかったのは彼女についてです。
最終局面で、容疑者に対してかなり非情な態度をとっていたので、一体なぜだろうと疑問でした。
個人的には、いとこのドナルドのことがすごく気に入っていたのかなと予想しています。
なんにせよ、彼女の行動は最後まで思わせぶりで不可解だったので、彼女は必要なかったんじゃないかなと思いました。
まとめ
思えば、カーの作品はストーリーやトリックは面白いものも多いですが、キャラの扱いがいまいちな気がします。
まだ読んでいるのが彼の前期の作品ばかりだからかもしれませんが、今後はどういうふうに作風が変わっていくのかと楽しみです。