「スタッフロール」(深緑野分)とは
「スタッフロール」とは著者の深緑野分さんが執筆した、2022年上半期の直木賞候補作に上がった長編エンタメ作品です。
かなり珍しいテーマで、映画業界で活躍する特殊造形技師の話を描いています。知識がなくてもかなり面白い作品です!
ちなみに作品で登場した映画や人物もまとめているので、気になる人はぜひご覧ください。(→こちら)
今回は「スタッフロール」について感想を語っていきたいと思います!
「スタッフロール」のあらすじと登場人物
あらすじ
戦後ハリウッドの映画界でもがき、爪痕を残そうと奮闘した特殊造形師・マチルダ。
脚光を浴びながら、自身の才能を信じ切れず葛藤する、現代ロンドンのCGクリエイター・ヴィヴィアン。CGの嵐が吹き荒れるなか、映画に魅せられた2人の魂が、時を越えて共鳴する。
特殊効果の“魔法”によって、“夢”を生み出すことに人生を賭した2人の女性クリエイター。その愛と真実の物語。
本作は、第一部は特殊造形師であるマチルダの物語で、第二部はアニメーターのヴィヴの物語で構成されています。
マチルダの物語はは1947年〜始まり、彼女がいかにして特殊造形師の道を志したのか、そして彼女が途中で参入してきたデジタルと自分のクリエイティブで、どう折り合いをつけていったのかが語られています。
反対にヴィヴの物語では、2017年〜と時は飛び、彼女がアニメーターとして活躍しながら、リアルには勝てないデジタルならではの苦しみが描かれています。
彼女らの対比はとても面白く、クリエイターじゃない人でも楽しめる作品の一つです。
登場人物
マチルダパート
・マチルダ・セジウィック:特殊造形師。メイキャップ・アーティスト
・ジョゼフ・セジウィック:マチルダの父
・エイミー・セジウィック:マチルダの母
・ロナルド(ロニー):ジョゼフの友人。ハリウッドの脚本家
・エヴァンジェリン:マチルダのダイナーでの同僚
・アンブロシオス・ヴェンゴス:特殊造形師
・チャールズ・リーヴ:合成背景画家。兼業で広告デザインも請け負う
・ベンジャミン・モーガン:マチルダのプロダクションでの同僚
・モーリーン・ナイトリー:ユタ大学の院生
・マシュー・エルフマン:アルビレオ・スタジオのリード・アーティスト
ヴィヴパート
・ヴィヴィアン・メリル(ヴィヴ):アニメーター。
・メグミ・オガサワラ:リンクス社のモデラー。ヴィヴの同僚兼ハウスメイト
・ヤスミン:リンクス社リガー
・チャールズ・リーヴ:リンクス社社長
・ドン・リーヴ:社長の甥。プロジェクトのリード・モデラー
・モーリーン・ナイトリー:レクタングル社創業者。VFXのパイオニア
・ジェイソン・マグワイア:リンクス社のスーパーバイザー
・チアン・リウ:リンクス社R&D部門のチーフ
・ユージーン・オジョ:リンクス社のアニメーター
・アンヘル・ポサダ:映画監督
・マチルダ・セジウィック:伝説の造形師
・ベンジャミン・モーガン:マチルダの元同僚
「スタッフロール」の感想(ネタバレあり)
久しぶりにエンタメ小説読んで、めちゃくちゃ面白かったです!
最後までノンストップで読んでしまうくらい、先が気になるタイプの作品でした。
特に一番良かったのが、最初のマチルダパートがもう面白くてなんの!
私の場合、職種は違えどクリエイターのような仕事をしているので、マチルダたちの苦悩が自分のことのように感じられて、そこが感情移入できて面白かったんだろうなと思います。
ただ、一点だけ残念だったのが、ヴィヴパートが最後駆け足だったと感じられたことです。
完全マチルダメインの物語だったことに対して、もう一人の主人公であるヴィヴの人生をもう少し丁寧に描いてほしかったなと思います。
あとちょっと映画や細かい技術描写に熱が入りすぎて、途中で読み飛ばしてしまいました・・・ここはもうちょっと興味持てればよかったかな。
以下、感想の詳細です。
マチルダパートが面白すぎた
最初に言いましたが、マチルダの人生が一番のみどころと言っても過言ではありません。
冒頭は、1947年、おおよそ第二次世界大戦が終わった頃のアメリカのニュージャージ州で暮らす小さな女の子(マチルダ)の物語から始まります。
その年に彼女は、まだ犬を知らない時に”大きな怪物“と出会い、のちの特殊造形師としてのアイデンティティになるようなものと出会います。
その怪物はマチルダ父の友人であるロニーが作ったものなんですが、マチルダはそれをずっと忘れずにいます。
思えば誰にでもこういう経験があると思います。それに対して好きになったり、憎んだり、悲しんだり、いろんな感情が一気にぶわっとなってしまう作品。
マチルダにとってはそれが、”大きな怪物”でした。
その後、ロニーのように映画や造形の世界に憧れ修行をするんですが、このパートもとっても面白かったです。
特殊造形師になる女性は数少ないのに、天才がいっぱいいる中で、苦労して少しでもいい作品を作ろうとするマチルダ。
クリエイター以外も悩むようなことだと思いますが、0から生み出せる人と生み出せない人だと、前者のほうがいいに決まってます。
ですが、マチルダは0から生み出す創作ができず、基礎はできるんですが応用ができないなどとかなり悩んでいました。
このキャラクター像がとてもリアルだったのが、感情移入できた要素の一つだと思います。
マチルダの慟哭
そんな彼女にも挫折がやってきます。
モーソーンという、新しいテクノロジーを勉強している若い女性がマチルダに接触してきます。
今までの制作方法は、造形を作ってそれを撮影する方法でしたが、新しいテクノロジーは画面上で形作り、それを映像化するというものです。(今で言うアニメーションやCGのようなもの)
もしその技術が一般的になったら、マチルダたち特殊造形師はどうなってしまうのでしょうか?
マチルダはそんな未来に恐怖し、未知なる技術に羨ましく思い、モーソーンたちを拒絶しました。
このシーンが一番印象的でした。
今まで自分が信じていたものを破壊されるなんて、めちゃくちゃショッキングですし、自分だけが時代に取り残される感が半端ないです。
わたしだったら自暴自棄になると思います。
その後、自暴自棄になりながらも本当の”マチルダの怪物”を作り、特殊造形師を辞めました。
彼女の気持ちがビシビシと伝わってきて、なんとも辛くて悲しい結末だったんですが、誰も彼女を止める人が周りにいなかったことが一番辛かったです。
リーヴとモーソーン
リーヴとモーソーンは、まあなんとも癖のある自分勝手な人たちでした。
リーヴは、最初の頃マチルダを助けてくれたりしてすごく良い人だったんですが、結局マチルダと相いれなくて別離してしまいました。
マチルダとリーヴが映画デートするシーンなんて、めちゃくちゃ映画みたいでキラキラしていたのに、残念でしょうがなかったです。
最後も結局よくわからないことやらかすし、しょうもない男でした。
ちなみに、彼の容姿はポール・ニューマンみたいですが、めっちゃイケメンです。びっくり。
Wikiより
モーソーンは、明らかに自分の理解者がほしいのと、ライバルがほしいのとでごちゃ混ぜの感情をマチルダにぶつけていました。
まあ若いからしょうがないのかなあと思ったりしましたが、単純に相手の気持ちを考えず、自分の気持ちを優先するのはただの自分勝手ですね。
クリエイターにとっての「スタッフロール」
マチルダが活躍した時代の映画業界は、女性蔑視が激しい時代で、マチルダがいくら活躍しても映画のスタッフロールに載ることはありませんでした。
彼女は心の奥底では、自分の名前がスタッフロールに他の仲間と一緒に載ることを望んでいたはずです。
だって自分がコレを作ったのに、なんで自分以外の人の名前が載るのって?と思ってしまいます。
なので、最後の展開はすごくいい展開でした。
スタッフロールに載ることはクリエイターにとってめったにないほど嬉しいことで、ようは”こんなすごい作品を作った製作陣の一人”、なんだということが自覚できるという意味でとても大切です。
なんでもそうですが自分が作ったものに対して、サインやクレジット入れることは自分の功績を示せるいいチャンスですし、自分の自信にも繋がります。
そう考えると当時のマチルダは、ほんとーーーーーに悔しかったんだろうなと思います。私だったらめっちゃ泣きます。
最後に長年の想いが報われて、すごく良かったです。すっきりエンドでした。
「スタッフロール」で登場した人物・作品など
せっかくなので、作品内で登場した、人物・作品などをご紹介します。
さすがに量が多いので全部は無理ですが、ご参考になれば嬉しいです。
①レイ・ハリーハウゼン
マチルダが幼少期に憧れた特殊効果の魔術師、レイ・ハリーハウゼンです。ストップモーション・アニメーターで、大ボスです。
彼の作ったものはこちらです。いやー当時はショックを受けた人続出でしょうね。
②ジム・ヘンソン
こちらも同じ時期に人気だった、操り人形師のジム・ヘンソンです。
カエルのカーミットや、セサミストリートのキャラを作った生みの親です。
こちらの動画では、実際どうやって撮っているのか、制作の裏側をジム自ら解説しています。
③ヘルズ・キッチン
マチルダが暮らしてたヘルズ・キッチンは映画「ウエスト・サイド・ストーリー」の舞台にもなったレストラン街が連なる場所です。
映画面白いですよ〜音楽がめちゃくちゃ人気なので聞いたことある人が多いと思います!バーンスタインが作曲してます。
2021年にはスティーブン・スピルバーグ製作・監督で映画が上映されています。
→詳しくはこちら
④2001年、宇宙の旅
1968年の映画です。
私はみたことがないんですが、作中でマチルダは絶句していました。廃工場の小さな水槽の中で宇宙を表現しているのではないか、とマチルダは行っています。
Amazonプライムに入っていれば見れますので、ご興味あれば。
→「2001年宇宙の旅」を見てみる
⑤猿の惑星
特殊造形師といえば、この作品は外せないなと思ったのが1968年の「猿の惑星」です。
傑作SFと言われるゆえんは映像を見れば一発でわかりますね。
→「猿の惑星」についてはこちら
ちなみにあの造形を作った人はジョン・チェンバースという方です。天才ってすごいですね。
まとめ
最初から最後まで一気読みしてしまう良作で、めっちゃおすすめです!
悲しくも辛くもあり、最後はハッピーにもなるので一石二鳥ともいえます。これがエンタメ小説の醍醐味ですね。
ぜひまだの人は読んでみてくださいね〜
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