「黒死荘の殺人」(カーター・ディクスン)とは
「黒死荘の殺人」とは、アメリカミステリ作家のカーター・ディクスン(=ジョン・ディクスン・カー)が1934年に執筆した処女作品です。
ちなみに新訳のタイトルは「黒死荘の殺人」ですが、旧タイトルは「プレーグ・コートの殺人」でした。
原書のタイトルは”The Plague Court Murders”です。
陸軍省情報部長のヘンリー・メリヴェール卿を探偵役としたシリーズであり、本作品はその第一作になります。
今回は「黒死荘の殺人」について感想を語っていきます!
HM卿シリーズの読む順番について
ヘンリー・メリヴェール卿シリーズについては、以下でご紹介しています。
ヘンリー・メリヴェール卿シリーズ(ディクスン・カー)の読む順番一覧|全24巻完結
「黒死荘の殺人」のあらすじと登場人物
あらすじ
曰く付きの屋敷で夜を明かすことにした私が蝋燭の灯りで古の手紙を読み不気味な雰囲気に浸っていた時、突如鳴り響いた鐘―それが事件の幕開けだった。鎖された石室で惨たらしく命を散らした謎多き男。
誰が如何にして手を下したのか。幽明の境を往還する事件に秩序をもたらすは陸軍省のマイクロフト、ヘンリ・メリヴェール卿。ディクスン名義屈指の傑作、創元推理文庫に登場。
一応本作品は、「火刑法廷」などを執筆したジョン・ディクスン・カー著なんですが、いろいろな事情でカーター・ディクスンという別名義で出版したようです。
今作は語り手のケン・ブレークの視点で物語が進みます。
ブレークの友人から幽霊屋敷と噂される黒死荘の調査を依頼され、マスターズ警部と一緒に館に行きます。
そこでは降霊術が開かれようとしていたのですが、降霊術の担当だった霊媒師のダーワースが石室で血だらけになって殺されていました。
事件現場は密室の状態で、殺人が行われていたであろう時間には別室で容疑者たちが全員集まっていたため、誰もがアリバイがある状態です。
果たして誰がどうやって犯行を行ったのでしょうか?
探偵役のHM卿は後々、派手に登場しますのでお楽しみに!
登場人物
・ディーン・ハリディ:黒死荘の現当主
・ジェームズ・ハリディ:ディーンの兄(故人)
・アン・ベニング:ディーンの伯母
・マリオン・ラティマー:ディーンの婚約者
・テッド・ラティマー:マリオンの弟
・ウィリアム・フェザートン:退役少佐
・ロジャー・ダーワース:心霊学者
・グレンダ・ダーワース:その妻
・ジョゼフ・デニス:霊媒
・メランダ・スウィーニー:ジョゼフの後見人
・ハンフリー・マスターズ:スコットランド・ヤード首席警部
・バート・マクドネル:巡査部長
・ヘンリ・メリヴェール卿:陸軍省情報部長
・ケン・ブレーク:語り手
「黒死荘の殺人」の感想(ネタバレあり)
今作はめちゃくちゃ面白かったです!
個人的にジョン・ディクスン・カーの作品の中でも上位に入るほどのお気に入りで、読み応えがありました。
登場人物もちょうどいい人数で、整理しやすい上にとても読みやすかったです。
以下犯人・トリック以外のネタバレありで語ります。
HM卿がキョーレツ!
初登場の作品で探偵役のHM卿が超強烈で、めちゃくちゃ面白かったです!
美女は大好きだし、口悪いし、横柄だし、名声に弱いしで、ある意味誰よりも俗世的な人間で笑いました。
HM卿はものぐさなので、自分では調査へ行かないところは安楽椅子探偵に分類されると思います。他の作品では調査いくかもしれませんので様子見。
また、彼の容姿はどことなくフェル博士と似たようなものを感じますが、元々はそういうつもりだったのでしょうか?
推理しているときも少し口調が似通っているので、私と同じ感想を持つ人がいるはず。翻訳のせいかもしれませんが。
まさかのミステリー展開
今回は全く犯人とトリックがわからず悩みながら読んでいたんですが、ミステリーの種明かしされた時はめちゃくちゃ面白かったです。
トリックのネタバレはしませんが、恐らくみんなが驚くポイントは”ダーワースが死んだ直接的要因”です。
これわかった人がいたら結構すごいと思います。
そしてその後の犯人もまさかの人物で、今では特に珍しい手法ではないのですが、当時では非常に盲点だったと思います。
最初からきちんと伏線を張っていたので、なるほどな〜と納得しました。
ただ、読者からするとちょっとフェアじゃないので、キャラクターを出すタイミングをもう少し改善してくれればよかったかなと思います。
その点を考えると「皇帝のかぎ煙草入れ」のミステリーはさらに洗練されていたので、初期のカーだとしょうがないですかね。
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個人的にバンコランシリーズよりも面白く読めた気がします。
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狂気的な登場人物たち
ホラーテイストが強い今作ですが、物語背景や事件もなかなか怖かったのに、それ以上に登場するキャラクターたちも狂気的で怖かったです。
特に心霊学者のロジャー・ダーワースです。
これは物語の後半に語られることですが、彼がそもそも降霊術会を行ったのは、美女のマリオンを自分のものにするためでした。
マリオンにはディーンという婚約者がいるのですが、それ関係なしに自分の妻にしたかったそうです。ゲスい。
強欲なダーワースは、彼女に霊のことを信じさせたり催眠術をかけたりなど、後もう一押しあれば彼女はダーワースの手に落ちる手前まで信頼性を勝ち得ていました。
そして最後の仕上げとして降霊術会で、自分を刃物などで傷つけることを試みたんですが・・・・ここが一番よくわからなかったところです。
どうして自分を傷つけることでマリオンを落とせると思ったのでしょうか?霊が本当にいることを証明したかったのか?
という感じでこのダーワースがクレイジーすぎて恐怖でした。
そして最後に登場する犯人も、今回ダーワースを手にかけた動機も判明した時、全てが恐怖でした。
これミステリーも素晴らしいんですが、ホラーとしても成り立つ小説でした。
まさに、幽霊なんかよりも生きてる人間のほうが怖いと言っても過言ではないでしょう。(マリオンが正常に戻ってよかった…)
まとめ
初めてHM卿ものを読みましたが、一発目でこのクオリティは非常によかったです。
これだと次の巻も期待しちゃいます。ゆっくり楽しんで読んでいこうと思います。