「Yの悲劇」(エラリー・クイーン)とは
「Yの悲劇」とは1931年に著者のエラリー・クイーンが執筆した、悲劇シリーズの第2部にあたる作品です。
出版当時は、「バーナビー・ロス」という別名でしたが、翻訳版はエラリー・クイーンで表記しています。
ちなみに、東西ミステリーベスト100というランキングでは、1,2位にランクインするほど日本でも超人気ミステリー小説です。
今回は、屈指の名作「Yの悲劇」について感想を語っていきます!
翻訳本一覧
今回私が読んだのは以下になります。他のエラリー作品も越前敏弥さんが翻訳されており、安定で読みやすいです。
ただ、基本的には新しい翻訳本が出たら更に改善されている可能性がありますので、未読ならそちらをおすすめします。
No. | 翻訳者 | 出版社 | 出版年 |
---|---|---|---|
1 | 中村有希 | 創元推理文庫 | 2022 |
2 | 越前敏弥 | 創元推理文庫 | 2010 |
3 | 宇野利泰(Kindle) | 早川書房 | 1988 |
4 | 鮎川信夫 | 創元推理文庫 | 1959 |
悲劇シリーズについて
悲劇シリーズの読む順番については、以下でご紹介しています。ご興味ある方はぜひご覧ください!
悲劇シリーズ(エラリークイーン)の読む順番一覧【ドルリー・レーンシリーズ】
「Yの悲劇」のあらすじと登場人物
あらすじ
ニューヨーク湾に浮かんだ死体は、行方不明だった大富豪ハッター家の当主ヨークのものだった。警察は自殺と結論づけるが、二ヶ月後、ハッター邸で毒物混入事件が発生。
解決を要請された名優にして名探偵のドルリー・レーンも手をつかねるうち、ついには屋敷で殺人が……。一族を相次ぎ襲う惨劇の恐るべき真相とは?
巨匠クイーンのレーン四部作屈指の傑作であり、オールタイムベスト常連の古典名作ミステリが21世紀によみがえる!
前作の「Xの悲劇」に引き続き、ハッター家に起こる数々の不可解な事件を、名探偵ドルリー・レーンが調査していく物語です。
冒頭は、大富豪のエミリー・ハッターの夫が海で遺体となって発見されたことから始まります。
衣類から遺書が見つかったことから自殺と断定されたのですが、その2ヶ月後にハッター家で毒物混入事件が起こります。
ある朝、いつも習慣でテーブルに用意されるエッグノッグを娘のルイーザが飲もうとしたところ、家族のジャッキーという子供が奪い取って飲んでしまいます。
しかしそれを飲んだジャッキーが悶え苦しんでしまいました。
一命は取り留めたものの、飼い犬がこぼれたエッグノッグを舐めただけでも死んでしまいました。
調査の結果、エッグノッグにストリキニーネという毒物が混入されていたことが発覚しました。
その後、度々ルイーザの周りで彼女を狙うような事件が起きたため、レーンが調査に乗りだすことになりました。
一体誰がハッター家を狙っているのでしょうか?
事件の動機は一体なんでしょうか?
本当に最後の最後まで明かされない真実を、ぜひ読みながら推理していただきたい作品です。
※ちなみにエッグノッグとは、牛乳と卵、砂糖を混ぜた甘い飲み物です。
登場人物
ドルリー・レーン:探偵、元俳優
クエイシー:レーンの扮装係
フォルスタッフ:レーンの執事
ドロミオ:レーンの運転手
ヨーク・ハッター:化学者
エミリー・ハッター:ヨークの妻
ルイーザ・キャンピオン:エミリーの先夫との娘。生まれつきの盲唖
バーバラ・ハッター:長女、奇才の詩人
ジル・ハッター:次女、妖婦っぽい
コンラッド・ハッター:長男、遊蕩児
マーサ・ハッター:コンラッドの妻
ジャッキー・ハッター:コンラッドとマーサの息子。13歳
ビリー・ハッター:コンラッドとマーサの息子。4歳
エドガー・ペリー:ジャッキーとビリーの家庭教師
トリヴェット:引退した船長。ハッター家の古くからの友人
メリアム:ハッター家の主治医
ジョン・ゴームリー:コンラッドの共同事業主
チェスター・ビゲロー:ハッター家の顧問弁護人
アーバックル夫人:ハッター家の家政婦兼料理人
ジョージ・アーバックル:ハッター家の雑用係兼運転手。夫人の夫
ヴァージニア:老女中
スミス:看護婦。ルイーザの世話係
ブルーノ:地方検事
サム:警視
シリング:検死医
「Yの悲劇」の感想(ネタバレあり)
この作品は全人類にお薦めしたいほど、とっても面白かったです。
すでに2〜3回くらい読んでいるのですが、何度読んでもよく出来ていて面白いです。(というか記憶なくしてもう一度読みたい)
最後の犯人・犯行方法については衝撃的展開で、本作の一番目玉となる部分ではあります。
ですが、最後のレーンがとった行動がすごく印象的だったのが、個人的に一番面白くて魅力的でした。
今回ばかりは少しネタバレありで書きますので、未読の方はご注意ください。
そもそもどういう事件だったのか?
せっかくなので事件を整理しましょう。
まず1つ目の事件は、盲唖のルイーザが飲むはずだったエッグノッグに毒が混入していた事件。
ここでポイントになるのは、エッグノッグに入っていた毒(ストリキニーネ)の量が、5~6人は殺せるほどの量だったということです。
2つ目の事件は、ハッター家の当主であるエミリーがマンドリンによって撲殺されていた事件。
ここでのポイントは、果物の梨に毒が混入していること、”なぜマンドリンを凶器としたか?”ということ、ルイーザが犯人の顔に触れた時”すべすべの肌だった”、の3つです。
3つ目の事件は、ハッター家が火災に見舞われる事件。
こちらのポイントは、ヨークの実験室とエミリーとルイーザがいる死の部屋が暖炉で行き来できることです。つまりそれを知ってたら誰でも通ることができます。
その後4つ目の事件が起ころうとしましたが、レーンによって阻止することができました。
そこでレーンが衝撃的な場面を見てしまうのですが、恐らく読者も一番鳥肌が立った場面だったと思います。
こうして整理すると、最初から犯人についてのヒントがかなりあって推測しやすかったのは否めません。
特にヨークの実験室で毒瓶を調べている際に、三脚椅子が棚の前に置いてあったことが一番わかりやすかったです。
動かされたのではなく、それを使ったのだとしたら?と他の証拠と合わせて考えると、明らかでした。
しかし、今作は犯人だけでなく最後の展開が驚くべきものだったことが、この作品を名作としているんじゃないかと思います。
レーンがとった最後の行動とは?
最後、レーンがとった行動については明言されていなく、完全に”読者の想像にお任せします”というタイプの作品でした。
一応解説すると、あれは犯人をレーン自らが裁きを下した、ということになります。
レーンが決意したのは、4つ目の事件を阻止した時です。
ルイーザがミルクを飲もうとしたのですが、実はそのミルクは毒入りでした。
犯人が躊躇いもなく毒を入れた場面を見たレーンは、そこで犯人の心理に気づいてしまったようです。
これがただの悪人であれば警察に引き渡せばいいだけの話ですが、犯人の正体的にも中々難しく、完全にレーンの独断による行動でした。
行動の良し悪しは置いといて、あの躊躇いもなく毒を入れた場面は読んでいて恐ろしかったです。
環境が生んだ化け物とレーンは表現していましたが、それも要因の一つでしかないのかなあと思いました。
よくよく考えてみれば、一連の事件はめちゃくちゃ恐ろしい話ですよ…
このレーンの行動には賛否両論が起こるかもしれませんが、悲劇シリーズの4部「レーンの最後の事件」を読むと、なぜこういう行動をしたのか?ということがわかると思います。
こういった傾向はアガサの「カーテン」など、いわゆる探偵なりの正義が発揮されますが、これは果たして正義というのか微妙です。
個人的にはこういう時のために法律があるんじゃないの、と思わなくもありません。
筋書きどおりにはいかない犯行
やはり今作で面白いところは、犯行プロットがあっても上手く遂行できずに不協和音のような事件になっているところです。
本当の筋書きから少しずつ違うので、逆にレーンたちが困惑しているのがすごく面白いです。
例えば、マンドリンを凶器として扱っているところなどが挙げられます。
これは恐らく翻訳よりも原書を読んだほうがわかりやすいんでしょうが、なぜマンドリンを使ったかというところに皮肉が込められているのが著者の遊びが出ていると思います。
(原書ですが、アメリカ版のAmazonにしか取り扱いがありませんでした…「The Tragedy of Y」)
そして最後に犯人の正体がわかったところで、読者を納得させるストーリーの運び方は非常にお見事です。
今回は再読した後に感想を書いていますが、改めて発見した伏線などに気づけたので、何度読んでも面白いのは名作である所以だなと思います。
ハッター家の梅毒について
結局本作では明記されていませんが、ヨーク・ハッターの自殺理由は”梅毒”でした。
途中でレーンがハッター家の主治医であるメリアムを脅して、カルテを見せてもらったシーンがありましたが、エミリーだけが「ワッセルマン反応」が陽性でした。(梅毒の指針の一つ)
その後、ヨークの皮膚病が発覚し絶望したようです。
他の家族は全員陰性だったようですが、恐らくその後発症する可能性は高いと思います。
Yの意味とは
これは完全推測ですが、恐らくヨーク・ハッター(York Hatter)の頭文字から取っているのだと思います。
まあ全ては彼のせいとも言えます。唯一の良心だったのかもしれませんが、なんともやりきれない事件だったと思います。
まとめ
何度もいいますが、この作品は神作品です。
いい作品って、読むのが止まらないんですよね。気になってどんどん読んでしまうというのが優れた作品の証拠だと勝手に思ってます。
Xの悲劇ももちろん面白いですが、個人的にはこちらのほうが最後の余韻も相まって素晴らしいです。
みなさまもぜひ一読ください。
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