「絞首台の謎」(ジョン・ディクスン・カー)とは
「絞首台の謎」とは、アメリカ作家のジョン・ディクスン・カーが1931年に執筆したバンコランシリーズ2巻目です。
前作の「夜歩く」という作品では彼のドSっぷりが見れましたが、今作は更にドS、いや悪魔的な存在と仕上がっています。
今回は「絞首台の謎」について感想を語っていきます!
バンコランシリーズの読む順番について
予審判事バンコランシリーズについては、以下でご紹介しています。
アンリ・バンコランシリーズ(ディクスン・カー)の読む順番一覧|全6巻完結
「絞首台の謎」のあらすじと登場人物
あらすじ
不気味なまでに精巧な絞首台の模型。
この面妖な贈り物を端に発して、霧深いロンドンに奇怪な事件が続発する。喉を掻き切られた死者を運転席に乗せて疾駆するリムジン、十七世紀に実在した絞首刑吏〈ジャック・ケッチ〉の名前を差出人にして届く殺人予告、そして霧のなかから現れる幻の街〈破滅街〉――悪夢の如き一連の怪事件に、予審判事アンリ・バンコランが挑む。
横溢する怪奇趣味と鮮烈な幕切れが忘れがたい余韻を残す長編推理。
今作は前の事件「夜歩く」から数か月後の話になります。
事件は、ロンドンを疾走するリムジンからです。そのリムジンの様子がおかしいので居合わせたバンコランたちはタクシーで追いかけるのですが、一向に追いつきません。
しかも追いついたと思ってリムジンを外から覗いたら、そこには黒人の男が喉をかき切られていました。
すでに死んでいるのになぜ運転できたのか?
事件を調べていくうちに、元々のリムジンの持ち主であるニザーム・エル・ムルクが行方不明ということも判明しました。
同時に警察へ何者かの通報が入り、「ニザーム・エル・ムルクがルイネーション街の絞首台で吊るされたぞ」と。
ロンドンにはルイネーション街というところはどこにもないのに、ムルクは一体どこへ消えたのでしょうか?また誰が黒人を殺害したのでしょうか?
登場人物
・アンリ・バンコラン:パリの予審判事
・ジェフ・マール:バンコランの友人。語り手
・ジョン・ランダーヴォーン:元ロンドン警視庁副総監
・ジョージ・ダリングズ:ランダーヴォーンの友人
・ニザーム・エル・ムルク:ブリムストーン・クラブに宿泊するエジプト人
・コレット・ラヴェルヌ:ムルクの情婦
・グラフィン:ムルクの秘書
・マルセル・ジョワイエ:ムルクの従僕
・リチャード・スマイル:ムルクのお抱え運転手
・ダニエル・ピルグリム:医師
・シャロン・グレイ:マールの元恋人
・タルボット:ヴァイン署の警部
「絞首台の謎」の感想(ネタバレあり)
想像していたよりも良い作品でした。
途中からあまり事件が動かずちょっとダレてしまったのですが、最後らへんは一気に読んでしまうほど面白かったです。
想定外の人物が犯人だったので、結構驚いてしまいました。バンコランお見事です。
個人的に一番気になったのが、語り手のマールがシャロンといまだに付き合っていたことです。
「夜歩く」でもモテモテだったし、どんだけシャロンはいい女なんだろうか・・・
今回の事件でも喧嘩ばかりしていたけど、果たして彼らが結婚できる時が来るのでしょうか。
以下詳細の感想です。
悪魔的存在バンコラン
読み終わった始めの感想は、今まででこんなに犯人を追い詰めるのを楽しんでる探偵がいたか?ということです。
バンコランに追いかけられたら犯人からするとたまったもんではないです。
今回の事件はそれが如実だった最後ではないかなと思います。
実際の犯人をあぶり出すこともそうですが、別の犯人を追い詰める時も、わざと犯人を興奮させて落とし穴に落としたのかなと予想しています。
何しろ最後にバンコランが鼻歌をうたっていたくらい、ご機嫌だったのですから。
まるで、ヘルシングに出てくるヴァンパイアを狩るアーカードを彷彿とさせるような悪魔っぷりでした。
とことんやるキャラは好きなので、バンコランにはどんどん犯人を狩ってほしいです。
一個疑問なのは、バンコランの職種は予審判事です。予審判事ってみんなあんな感じなんでしょうか?
追い詰め方は「バトラー弁護に立つ」のバトラーとも似てる気がします。
犯人の動機が何とも哀愁漂う
最後はまさかの犯人の思惑どおりでした。
バンコランも罰を受けさせたかったから別の犯人を誘導したのかと思いますが、今回の犯人としては報われたと思います。
そもそも今回の事件、犯人の動機が切なすぎです。最後の告白なんて読者の同情を誘います。
最初から最後まで、一体どんな思いで仕掛けていたのかと思うと哀しく、カー作品の中では珍しく根っからの悪人のようには見えない犯人でした。(他の作品はもっとしょうもない犯人ばかりなのに!)
謎の街「ルイネーション」
結局ルイネーションとはどこの街だったのでしょうか。
ブリムストーン・クラブの裏路地、というのが正解だったようなのですが、名前の由来はJ.L.キーン著「失われた地の物語」の物語内にある一節「破滅(ルイネーション)」から来ています。
著者名と込められた意味「ルイネーション街(破滅の街)」を考えると、狙われていたエル・ムルクの再期の街という意味が込められたのかなあと想像しています。
もしくは、被害者のキーンのことを表していたのかも・・・
どちらにせよ誰も報われない話でした。(バンコランだけが楽しんでいた説)
まとめ
なかなか読み応えある作品でした。
最初から最後まで絞首台が登場して怪しい雰囲気満載の作品でしたが、カーは本当に怪奇趣味だなと感じます。
ミステリーだけでなく、怪奇ファンタジーを書くのが上手いのは日本の江戸川乱歩と通ずるところがありますね。
さすが、江戸川乱歩が好きな著者なだけあります。