「イヴリン嬢は七回殺される」(スチュアート・タートン)とは
「イヴリン嬢は七回殺される」とは、スチュアート・タートンが執筆した、イギリスでベストセラーになったSFミステリー小説です。
すでにネットフリックスでは、7話からなるドラマを制作中とのことで大人気作品となっています。(2020年時点の話です)
ちなみに、原書は「The Seven Deaths of Evelyn Hardcastle」になります。
今回は「イヴリン嬢は七回殺される」の感想を語っていきたいと思います!
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「イヴリン嬢は七回殺される」のあらすじと登場人物
あらすじ
森の中に建つ屋敷〈ブラックヒース館〉。そこにはハードカースル家に招かれた多くの客が滞在し、夜に行われる仮面舞踏会まで社交に興じていた。
そんな館に、わたしはすべての記憶を失ってたどりついた。
自分が誰なのか、なぜここにいるのかもわからなかった。だが、ひょんなことから意識を失ったわたしは、めざめると時間が同じ日の朝に巻き戻っており、自分の意識が別の人間に宿っていることに気づいた。
とまどうわたしに、禍々しい仮面をかぶった人物がささやく――今夜、令嬢イヴリンが殺される。
その謎を解き、事件を解決しないかぎり、おまえはこの日を延々とくりかえすことになる。タイムループから逃れるには真犯人を見つけるしかないと……。悪評ふんぷんの銀行家、麻薬密売人、一族と縁の深い医師、卑劣な女たらしとその母親、怪しい動きをするメイド、そして十六年前に起きた殺人事件……
不穏な空気の漂う屋敷を泳ぎまわり、客や使用人の人格を転々としながら、わたしはの謎を追う。だが、人格転移をくりかえしながら真犯人を追う人物が、わたしのほかにもいるという――
簡単にあらすじ説明すると、主人公エイデンがタイムループに巻き込まれ、ブラックヒース館で起こる殺人事件の犯人を発見することができれば、ループから抜け出すことができる話です。
物語はエイデンが記憶喪失になった状態から始まります。
戸惑うエイデンの前に、謎の人物「黒死病医師」が登場し、この世界で起こるループについて説明されます。
そして午後11時までにイブリンが誰によって殺されるのか、犯人と理由を「黒死病医師」に説明できれば、タイムループから抜け出すことができる、と言われます。
エイデンの他に2人の競争相手がおり、その人たちよりも先に犯人を見つけなければこのループを抜け出すことはできません。
果たしてエイデンはループから抜け出すことができるのでしょうか?
ブラックヒース館のルールについて
・ブラックヒース館のループは、事件の犯人を見つけて午後11時までに黒死病医師へ理由とともに報告しなければ、出られない。
・エイデンは同じ日の8人の人物に宿ることができる。次の人物に移ったとしても、記憶はそのまま引き継がれる
・宿主が意識をなくすと次の宿主に移ってしまう。宿主が死んだ場合、2度と同じ宿主には移れない。
登場人物
今作の登場人物はかなり多いです。読みながら人物関係を確認することをおすすめします。
・エイデン・ビショップ:主人公(視点は全てこの人)
・黒死病医師:エイデンを見守る謎の人物。30年もここにいる
・アナ:殺害されたと思われる人物
・セバスチャン・ベル:医師
・従僕(フットマン):エイデンを追いまわすストーカー
・ダニエル・コールリッジ:プロのギャンブラー
・リチャード(ディッキー)・アッカー博士:医師
・テッド・スタンウィン:50代の恐喝者
・ピーター・ハードキャッスル:ブラックヒース家の当主。ヘレナの夫
・ヘレナ・ハードキャッスル:ピーター・ハードキャッスルの妻であり、イブリン、トーマス、マイケル・ハードキャッスルの母親
・マイケル・ハードキャッスル:イブリンとトーマス・ハードキャッスルの兄弟、セバスチャンの友人
・イブリン・ハードキャッスル:トーマスとマイケル・ハードキャッスルの姉妹、殺される予定の被害者
・トーマス・ハードキャッスル:イブリンとマイケル・ハードキャッスルの兄弟
・エドワード・ダンス:弁護士
・クリフォード・ヘリントン:海軍士官(退役)
・フィリップ・サトクリフ:弁護士
・セシル・レイヴンコート卿:太った銀行家
・チャールズ・カニンガム:レイヴンコート卿の従者
・グレゴリー・ゴールド:画家
・ドナルド・デイヴィス:グレース・デイヴィスの兄
・グレース・デイヴィス:ドナルド・デイヴィスの妹
・ジム・ラシュトン:警察官
・ミリセント・ダービー:ジョナサン・ダービーの母
・ジョナサン・ダービー:ミリセント・ダービーの息子。クズ
・ロジャー・コリンズ:ブラックヒース家の執事、顔にやけどを負っている
・ルーシー・ハーパー:ブラックヒース家のメイド
・チャーリー・カーバー:グラウンドキーパー
・マデリン:イブリン・ハードキャッスルのフランス人メイド
・ドラッジ夫人:ブラックヒースの家で長年料理人をしている
・クリストファー・ペティグリュー:弁護士
「イヴリン嬢は七回殺される」の感想・考察(ネタバレあり)
物語の構成としては、かなりよくできていた小説でした。
いくつかキャラクターの背景で物足りない部分はありましたが、最後まで読み応えたっぷりの力作でした。
実際、章立ては日付ごとになっているのですがぶっちゃけ全部を把握しにくくて、読むのが大変でした。
面白かったことは間違いないのですが、もう一回読まないと細かい部分が拾えないだろうなと思いました。
初心者の方よりも、ある程度読書になれた方におすすめします。
以下からいくつかのセンテンスに分けて語っていこうと思います。犯人の名前は書きませんが、それ以外はネタバレしていますのでご注意ください。
エイデンが乗り移った宿主
まずは主人公エイデンが経験した宿主の順番を載せます。
2日目:ロジャー・コリンズ
3日目:ドナルド・デイビス
4日目:セシル・レイヴンコート卿
5日目:ジョナサン・ダービー
6日目:エドワード・ダンス
7日目:ジム・ラシュトン
8日目: グレゴリー・ゴールド
この順番は犯人を見つけるのに一番良い順番でした。
私も一回読んだだけでは全部を拾いきれなかったのですが、日付ごとに得られるキーアイテムやキャラクターの行動が事件の手がかりになります。
これが上手いことパズルみたいになってまして、例えば6日目のエドワード・ダンスでなければピーター・ハードキャッスルが亡くなっていたことはわかりませんでした。
それもこれもエイデンがこのループを何回もやり直したため、一番良い宿主の順番を探っていたからです。
しかし、エイデンは度重なる転生によってエイデンという意識が消費されており、冒頭の記憶障害などは宿主の意識に乗っ取られた状態でした。
黒死病医師やアナらによって次第にエイデンという意識を取り戻して、事件解決へと前向きになっていきます。
そもそも、主人公エイデンは他の競争者よりも優遇されています。
他の競争者は一人の人物にしか宿れないのにも関わらず、エイデンは8人もの人物に宿ることができます。
それはエイデンがとある理由で自発的にループへやってきたため、黒死病医師がルールを大幅修正し、融通を効かせているためです。
ここらへんのルールはよくよく読まないと理解できなかったです。ルール自体はとても面白かったです!
イヴリン殺人事件について
これが普通のミステリー小説だったら特別な事件ではないのですが、ループという特殊な設定によって事件そのものをわかりにくくしています。
そして視点も日付ごとに変わり、事件を俯瞰できるのではなく、断片的に見れることによって面白さに拍車がかかってるのではないかなと思いました。
ぶっちゃけるとこれを読者が解くにはアンフェアな部分がいくつかあります。
実際にイヴリンだけでなく、他にも被害者が出ることが後々わかってくるからです。
もしかしたら解けるのかもしれませんが、シンプルにイヴリンだけの殺人事件だったらよかったなと思います。
ブラックヒース館の正体は?
このループ、実は囚人の矯正プログラムとして作られた刑務所だったという設定でした。
この設定自体がかなり面白かったのですが、それならエイデンが優遇されていたのも納得がいきます。
ただ、このブラックヒース館は何千もの刑務所の中でも最強レベルで難しいとされていて、今まで2人しか収容されていない上に誰も出られたことがないという恐ろしい場所でした。
それにもかかわらず、エイデンは外からやってきてわざわざこのブラックヒース館に入って自我を無くしかけたという、とんでもないことをやらかしたので思えば主人公が一番最強で迷惑な存在でした。
エイデンがブラックヒース館に来た理由は?
主人公がブラックヒース館にわざわざきた理由は、この館に収容された殺人犯をさらに復讐してやりたくて自らループに飛び込みました。
どうやらエイデンの姉をなぶり殺しにした殺人犯アナベル・コーカーを矯正プログラムだけじゃ飽き足らず、拷問してやろうと思ってましたが、ループに巻き込まれているうちに、アナベル=アナを愛してしまいました。
つまりエイデンはアナベルがループの中で矯正され生まれ変わったことがわかり、以前のアナベルではなく、生まれ変わったアナを愛したということです。
個人的にここが一番納得いかなかった部分なんですが、そんな簡単に人格を変えられることができるのか?と疑問です。
エイデンがアナを愛す決定的なシーンもないので、説得力が欠けて微妙だったことが残念です。
ある意味エイデンもループに揉まれて、人格が変わって生まれ変わったということなんでしょうか。
また、アナともう一人の受刑者のダニエルは一体何をやらかしたんでしょうか。この人は結局、人格矯正がされていなかったのですが人物背景も書いてくれたらよかったなと思いました。
まとめ
一部微妙なところがありましたが、それでも物語自体は読み応えがあって最後までノンストップで読んでしまうほど面白かったです。それは間違いなし。
ただ従僕というハンターの存在がいまいち自分の中で消化しきれていないのと、細かいところが拾いきれていなかったので、また折を見て再読したいと思います。
読み応えのある海外小説を読みたい方にはぜひおすすめの作品です。