「われら闇より天を見る」(クリス・ウィタカー)とは
「われら闇より天を見る」とは、著者のクリス・ウィタカーが2022年に書いた、アメリカの海沿いの街を舞台としたミステリー小説です。
ミステリーの要素もあるのですが、どちらかというとロードムービーみたいな、人々の再生を描いているお話です。(すずめの戸締まりのような物語の流れ。今回のほうが辛い話ですが・・・)
今回は「われら闇より天を見る」について感想を語っていこうと思います!
「われら闇より天を見る」のあらすじと登場人物
あらすじ
「それが、ここに流れてるあたしたちの血。あたしたちは無法者なの」 アメリカ、カリフォルニア州。
海沿いの町ケープ・ヘイヴン。
30年前にひとりの少女命を落とした事件は、いまなお町に暗い影を落としている。自称無法者の少女ダッチェスは、30年前の事件から立ち直れずにいる母親と、まだ幼い弟とともに世の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた。
町の警察署長ウォークは、かつての事件で親友のヴィンセントが逮捕されるに至った証言をいまだに悔いており、過去に囚われたまま生きていた。彼らの町に刑期を終えたヴィンセントが帰ってくる。
彼の帰還はかりそめの平穏を乱し、ダッチェスとウォークを巻き込んでいく。
そして、新たな悲劇が……。苛烈な運命に翻弄されながらも、 彼女たちがたどり着いたあまりにも哀しい真相とは――?人生の闇の中に差す一条の光を描いた英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞作。解説:川出正樹
物語の舞台は、アメリカの田舎町です。
その町で起こった、少女が行方不明になった事件から物語がスタートします。
そして30年後、亡くなった少女の姉スターが母親となり、彼女の子供であるダッチェスが主人公として物語が進んでいきます。
ダッチェスには弟のロビンがいました。
彼女の日々は自称無法者として、町の人々からの冷たい態度からロビンを守ることでした。
ダッチェスの母スターはいまだに30年前の事件から立ち直れず、夜な夜なバーで出稼ぎに出かけるのですが、彼女ら一家はいつもぎりぎりの状態で生活していました。
そんな彼女ら一家を見守っていたのが、幼ななじみでもある警官のウォークでした。
ある日、30年前の事件の容疑者であったヴィンセントが、刑期を終えて町に帰ってきます。
スターとウォークは、彼の親しい友人でもあったため、複雑な気持ちを抱えていました。
そんな中、ある時殺人事件が起こってしまい、町は混乱に陥ります。
誰が殺されたのか?
犯人は誰なのか?
この物語は、最後の最後で彼らの秘密が明かされます。想像しながら読むと面白いと思います。
登場人物(ネタバレあり)
ダッチェス・デイ・ラドリー:13歳の少女。自称”無法者”
ロビン・ラドリー:ダッチェスの弟
スター・ラドリー:ダッチェスの母親
シシー・ラドリー:スターの妹
ハル・ラドリー:スターの父親
ウォーカー(ウォーク):ケープ・ヘイヴン警察の署長
マーサ・メイ:ウォークの元恋人。弁護士
ヴィンセント(ヴィン)・キング:ウォークの幼馴染
ブランドン・ロック:スターの隣人
ミルトン:スターの隣人。肉屋
ディー・レイン:銀行の窓口係
エド・タロウ:建設業者
リーア・タロウ:ケープ・ヘイヴン警察の署員。エドの妻
ルーアン・ミラー:ケープ・ヘイヴン警察の補助員
ボイド:州警の刑事
リチャード(ディッキー)・ダーク:不動産業者
トマス・ノーブル:ダッチェスの同級生
ドリー:ハルの知人
プライス夫妻:里親
メアリー・ルー:プライス夫妻の娘
シェリー:ケースワーカー
カディ:フェアモント郡矯正施設長
「われら闇より天を見る」の感想(一部ネタバレあり)
かなり面白かったです。
ほとんどの登場人物が何かを抱えながら生きていて、読んでいてとても辛い物語でした。
でも面白いという感想を抱いてしまうほど、よくできています。
読み終わった後、改めて非常にいいタイトルだなと思いました。
闇=ヴィンセントたちなのか、自分が立っている場所が”闇”なのか、いろいろと考えることができるのがすごく良いです。
原題は「We begin at the end」なんですが、これもいいです。
ただ、この作品は人によって好き嫌いが分かれる小説だと思います。
理由としては、ずっと淡々と物語が進んでいく上にミステリー要素は少し薄く、”答え”を明確に書かないタイプの文章なので癖があると思います。翻訳のせいかもしれませんが。
でも一度は読んでほしい作品だと思うので、まだの方はぜひ読んでみてください。
以下、詳細に感想を書きます!(ネタバレありなのでご注意を)
どのような事件だったのか?
そもそも今回はどのような事件だったのでしょうか。いくつか起こっていたので、整理したいと思います。
まず1つ目の事件として、スターの妹であるシシーが7歳の時に交通事故によって亡くなりました。
この時の犯人は、当時スターの恋人だったヴィンセントでした。アルコール運転を行なって、思わず事故を起こしてしまったのが事の顛末です。
そのため、彼が15歳の時に刑務所に入れられてしまいました。
2つ目の事件は一つ目の事件から30年後の話で、スターの娘であるダッチェスが不動産屋のダークの持っているクラブを燃やしました。
その時に彼女が証拠隠滅のために防犯テープを持ち去りました。
ダッチェスは自分の母親が暴行を受けたことを知り、その報復として事件を起こしてしまいました。
3つ目の事件は、30年後にヴィンセントが刑務完了して町に戻ってきた後、スターが家で殺されていました。
その時に通報したのはヴィンセントで、今回も状況証拠によって彼が逮捕されて、裁判にかけられました。
こちらの理由は、物語の根幹にも関わるので書くのは控えます。
以上3つの事件が起きたわけですが、これらの事件が発端で関わった人間たちが振り回されていくのが物語のベースになっています。
物語を読んでいく中で一番考えさせられたのが、誰もが”何かの事情”を抱えていて、そのために行動しているのであって根っからの悪人なぞいない、という点です。
もちろん、人が殺される事件が起きてるわけですから、その方面で見れば犯罪(悪)です。
しかし、そこに”何かの間違い”で事故として起こった場合、それは犯罪(悪)になりうるのでしょうか。
3つの事件は事件の背景が非常に似ています。
この物語は誰が悪いという話ではなく、単純にアメリカ社会と銃が起こした事件だと捉えました。
非常に辛く考えさせられる物語でしたが、こういった問題提起を含む物語を読めてよかったです。
余談ですが、同じように考えさせられる物語として「The Last of Us Part II」というゲームを思い出しました。
これも非常に現実的な物語で、今回の物語と似ていると思います。気になる方はぜひ。
13歳少女ダッチェスの孤独な戦い
この物語で、現実社会の辛さを味わっているキャラクターの一人でした。
子供ながらに自分の状況を理解し、弟のロビンや母親のスターたちを守るためにどう動けばいいのか、必死になって生きている姿は読んでいて非常に辛かったです。
彼女がダークのクラブを燃やした時、後々その事件によって複数の人間が追い詰められるところまで発展するとは想像だにしてなかったです。
これぞバタフライエフェクトですね。しかし彼女の心うちを知っていた読者としては、責めることができません。
その後も彼女がいろんなところを転々としたり、一度年頃の少女として取り戻した後にお世話になっていた祖父のハルの死が起こり、全てを終わらすために彼女なりの清算をつけようとするシーンは、もう辛すぎてしょうがなかったです。
結局スターに暴行を加えてた人間も、ダッチェスが考えていた犯人とは別の人間と知った時、もうなんとも言えない気持ちでいっぱいでした。
ダークの真意も最後らへんで明かされていましたが、誰も彼もが運命を背負いすぎていて、こんな辛い物語があっていいのかとショックでした。
ただ、最後に彼女が泣く泣く弟と決別をした時、その道を選んだことによって彼女の未来が見えるような感じを受けました。
彼女なりの優しさが詰まった最後で、全てを受け入れたハッピーエンディングでよかったなと思います。
ヴィンセントの人生とは
ダッチェスと同じくらい辛い人生を送ってきたキャラクターの一人でした。
彼がいなければ物語として際立たなかったと思います。個人的に好きなキャラクターでした。
著者はうまく彼の人間性を隠しながら表現していて、ぎりぎりまで掴めませんでしたが、最後の最後で知った彼の本当の姿には同情を禁じ得なかったです。
特に一番印象に残っているのが、彼が刑務所にいるときの行動です。
身体中を深く切りつけて、自分を痛めつけ、自分の罪を忘れないようにしているシーンです。
どこまで自分を追い詰めているのか、自分にそんなことができる人間がいるのか、と非常にショックでした。
ただでさえ15歳の少年がイカれてる大人たちの中(監獄)に入れられて、無事で済むはずがありません。精神的にも身体的にもまともでいるのが無理だと思います。
思い出すだけで辛すぎて泣けてしまうのですが、その次に一番やばかったのは、ダッチェスとヴィンセントが対面するシーンです。
彼女の手を汚させず、なおかつやることをやってずっと死にたかった願望を携えて去っていったわけですから、なんとも印象的でした。
どこまでもスターとダッチェス、ロビンを最後まで守っていった立派な父親でした。
ですが、やっぱり彼が歩んできた人生を思い返すと、もし生まれ変わったら幸せであってほしいと願わずにはいられません。
まとめ
とにかく辛く、考えさせられる物語でした。
私は特にヴィンセントの物語がずっと印象的に残っていて、どこまでもスター一家への献身がすごかったです。
また、スターが毎日刑務所に通っていた話も考えるだけで泣けます。
もし映画化したら絶対見ます。ハンカチを大量にもって行きます。
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