「三月は深き紅の淵を」とは
この作品は恩田陸の「理瀬シリーズ」の番外編になります。
「麦の海に沈む果実」に登場する「三月は深き紅の淵を」という一冊の本を巡る4つの物語です。
今回はこちらの本について感想を語っていきます!
「三月は深き紅の淵を」のあらすじ
あらすじ
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に2泊3日の招待を受けた。
彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、10年以上探しても見つからない稀覯本(きこうぼん)「三月は深き紅の淵を」の話。
たった1人にたった1晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
「麦の海に沈む果実」に登場する「三月は深き紅の淵を」は、理瀬の父である校長が書いた本として書かれていますが、本書でテーマとなる「三月は深き紅の淵を」という本は別の本になります。
本編とはほとんど関係ない作品なんですが、計4つの作品が載っています。それぞれの物語は関連がなく、単独の物語となっています。
・第一章 待っている人々
・第二章 出雲夜想曲
・第三章 虹と雲と鳥と
・第四章 回転木馬
ただ一つだけ共通点があるのは、どの物語でも「帽子をかぶってコートを着て、革のトランクを持つ男」の存在についての描写が書かれています。
これが何を意味しているのか最後まで語られていないのですが、各物語を「視る」外側の人ではないかなと感じています。
「三月は深き紅の淵を」の感想(ネタバレあり)
これぞ恩田陸さんという作品で、とても面白かったです。
個人的には理瀬シリーズの本編よりも面白かったなと思えるほどでした。
この作品、実は4章に著者の描きたかった物語について書かれています。1〜3章まで読んでよく分からなかった人はぜひ4章を読んでみてください。
第一章 待っている人々(一番好き)
この物語は、鮫島巧一という会社員が会社の会長のパーティ「三月のお茶会」に招待されて、そこで不可思議なゲームに参加させられる話です。
そのゲームとは、3日間のうち招待された家のどこかにある「三月は深き紅の淵を」を見つけ出せたら勝ち、というものです。
ゲームは置いといて、一番興味深かったのは「三月は深き紅の淵を」の内容について語られる場面です。
・第一章「黒と茶の幻想-風の話」:4人の壮年の男女が屋久ノ島で旅する話。旅の途中この4人が変な事件ばかり話すため、一種のミステリ仕立てになっている。
・第二章「冬の湖-夜の話」:失踪した恋人を、主人公の女性と恋人の親友と探す話。
・第三章「アイネ・クライネ・ナハトムジーク-血の話」:海辺の避暑地に家族とやってきた少女が、生き別れになった腹違いの兄を探す話。
・第四章「鳩笛-時の話」:一人称で話が進む。最初は訳が分からない話で途中から一人の物語作家が小説を書いている話だとわかってくる。
読んだ方ならピンとくると思うのですが、1章で登場する「三月は深き紅の淵を」は本書の解説のようなものと分かります。
なぜなら、この後実際の2,3,4章は上記のテーマと一致する物語だからです。
1章も一応ゲームしている場面に風の描写がありますので、あながち間違ってないんじゃないかと思います。
1章は個人的にお気に入りの作品何ですが、特にゲームの最後のオチがかなり面白かったです。
鮫島くんの最後の推理が突拍子もなくて驚いた場面もあり、妄想を掻き立てられる設定でもあったので、ぜひ一番最初に読んで欲しい作品です。
結果的に「三月は深き紅の淵を」という本はなんだったのか?はぜひ読んで確かめて見てください。
第二章 出雲夜想曲
この物語は二人の女性編集者が、「三月は深き紅の淵を」の著者に夜行列車に乗って会いに行く話です。
始まりは隆子が朱音を誘って、著者に会いにゆこうとします。
その道中で、どうやって著者を突き止めたのか隆子が推理を披露します。
その推理がよくもまあこれだけの少ない情報量で住所まで突き止めたな〜と思ったのですが、最後の最後でまさかの展開を迎えます。
夜行列車などの情景描写がとても上手で、夜のお供にぴったりのとても良い作品で面白かったです。
不思議な雰囲気を作るのがとてもお上手な恩田さんならではの作品でした。
第三章 虹と雲と鳥と
4つの中で一番やるせない話なのが、この章です。
とある少女が2人、崖下へ転落して死亡する事件が起きます。
今回はその少女2人の周りの人たちが、彼女たちに何が起こったのか足跡を辿る話です。
ネタバレをしますと、少女2人は異母姉妹でして共通の父親が凄惨な事件を起こした容疑者ということを知ります。
その凄惨な事件が、まるで八つ墓村の彷彿とさせるような村民皆殺しをする人だったので、うわあ・・・と引きました。
ですが、彼女たちの足跡を辿る過程がかなり面白く、少しずつ彼女らの本当の姿や裏の事情が見えてくるのは展開として盛り上がりが最高でした。
最後に彼女らが死ぬ直前の話らしきものが語られるのですが、なんだか恩田さんらしくなくて、「これは本当の話か?」と疑ってしまいました。(たぶん本当だと思います)
いやー面白かった。
第四章 回転木馬
1章でも説明があったとおり、この話は冒頭から話の流れが掴めない話です。
途中から恩田さんらしき著者の語りが入り、合間に「麦の海に沈む果実」の別次元の話も挟まれて、さらに訳が分からなくなっていきます。
タイトルも回転木馬、となってるように目まぐるしく場面が変わっていきます。
恐らくですが、著者の思考をそのまま書き起こしたものなので読者にとっては理解しがたい文章になってるんだろうな、と予想しています。
ただ、端々に作家が物語を生み出す苦悩が感じられて、始終苦しそうな様子が見受けられます。
先程も言いましたが、途中で本書をどういう構想で書こうとしたのかが語られています。(内側と外側の話)
詳しくは書きませんが、ぜひ読んでみてください。
まとめ
本作はかなり満足いく話でした。
恩田陸さんは答えを出さない作風が多くてそこが大好きでして、結構作品は読んでるほうです。
特に今作や初期の作品などの雰囲気がかなり良くて、読書を好きになったきっかけでもあったりします。
1997年の作品なんで20年前以上経っていますが、今でも変わらぬ面白さがあるので、ぜひ読んでない人は読んでほしいと思います。
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